買取方式のクレジットカード現金化は横領罪にあたるのか

更新日
  • 2020年03月30日
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「クレジットカード現金化の利用者は横領罪に問われる可能性があります!」これはクレジットカード現金化に対する注意喚起をしているサイトでよく目にする一文ですが、現在まで利用者が横領の容疑で逮捕された事例はありません。では、どういった理由から買取方式すなわちクレジットカードで購入した商品を転売する現金化は、横領行為にあたるとされるのでしょうか?

買取方式の現金化とは?

買取方式のクレジットカード現金化とは、業者が指定した商品を利用者がクレジットカードで購入し、その商品を業者が現金で買い取るというものです。基本的には個人で行う転売と同じ行為ですが、個人の場合、換金性の高い商品を購入することで、カード会社にクレジットカード停止されるリスクが生じます。一方、現金化業者を利用した場合、換金性の高い商品を購入するとは限らないため、そのリスクを抑えることはできます。

買取方式の類型

買取方式の現金化方法は大きく分けて3つの類型に分かれます。

【買取型】
利用者に第三者の商品を購入させ、それを現金化業者が買い取るものです。新幹線回数券や家電類、ブランド品などの換金性の高い商品を利用者に購入させ、それを現金で買い取ります。業者は利用者から買い取った商品に、業者の利益を乗せて他の第三者に売却します。最近増加傾向にあるAmazonギフト券の買取業者もこの類型です。

【買戻型】
現金化業者と利用者の間で、買戻特約や返品特約を付けた売買契約を結び、業者が売り渡した商品を現金で買い戻すか、利用者が買い受けた商品を返品することによって現金化するものです。WEB経由で利用する場合、業者のECサイトで購入した商品を郵送にて受け取り、再度業者に送り返すという手間が生じます。

【斡旋型】
集客専門の業者が利用者から現金化の依頼を受け、販売業者と買取業者を紹介するものです。形式的には別業者としていますが、実質的には同一業者が運営しています。近年の現金化業者に多い類型です。業者を分ける理由の一つとして、段階的に料金を徴収した方が、利用者を口説きやすい点が挙げられます。例えば、現金化の手数料として一度に20%徴収されるより、販売及び買取業者の紹介手数料が10%、商品購入額と業者への売却額の差損が10%となった方が、利用者も受け入れやすいでしょう。また、表面的には別業者であっても実体は同一業者であるため、利用者に販売した商品を買取業者が回収し、また販売業者に戻すことで、同じ商品を使いまわせるといったメリットもあります。

クレジットカードで購入した商品の所有権

横領罪について触れる前に、その前提として理解しておく必要のあるクレジットカードで購入した商品の所有権について解説していきます。

所有権とは?

まず、所有権とは物を自由に使用・収益・処分する権利のことです。処分とは、その物を売却したり、債務の担保に供するなど、物の現状や性質を変更したり、財産権に法律上の変動を生じさせる行為です。

民法 第206条(所有権の内容)

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

個人が持つ所有権は、個人のみならず国家でさえも侵すことのできない絶対的支配権であるとされています。(私的所有権絶対の原則)また、その物の事実上の支配、すなわち占有とは関係なく観念的に存在するものです。例えば、知人に自転車を貸した場合、その自転車を自由に使用できるのは占有者である知人ですが、その事実に関係なく所有権者は自分であるということです。

所有権留保とは?

所有権留保とは、売買代金の担保目的で、買主が代金を完済するまで目的物の所有権を売主に留保することです。これにより、買主が代金債務を履行しない場合には、売主は売買契約を解除し、目的物の返還を請求できます。

割賦販売における所有権留保については、割賦販売法第7条に推定規定が置かれています。
※推定規定とは、ある事柄について法律上は一応このように取り扱うということを定めたものです。これに反する事実や証拠すなわち反証があった場合には、その反証が認められます。

割賦販売法 第7条(所有権に関する推定)

第二条第一項第一号に規定する割賦販売の方法(2か月以上かつ3回以上の分割払い)により販売された指定商品(耐久性を有するものとして政令で定めるものに限る。)の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは、割賦販売業者に留保されたものと推定する。

反証が認められる状態では、留保所有権は担保としての安定性を欠くため、通常、売買契約時に所有権が売主に留保される旨を特約で定めます。

クレジットカード決済における所有権留保

クレジットカード決済(包括信用購入あっせん)の場合は、カード会社の会員規約において、商品代金を完済するまではカード会社に所有権が留保されると定められています。JCBの規約を例に確認してみましょう。

JCB会員規約 第23条(債権譲渡の承諾・立替払いの委託)

3. 商品の所有権は、加盟店から当社に債権が譲渡されたとき、または当社が加盟店、JCBもしくはJCBの提携会社に対して立替払いをしたときに当社に移転し、ショッピング利用代金の完済まで当社に留保されることを、会員は承認するものとします。

商品の所有権は、当該商品の売上債権が譲渡された時点、もしくは立替払いが行われた時点で、加盟店からJCBに移転するようですね。では、JCBの加盟店規約も確認してみましょう。

JCB加盟店規約 第19条(商品の所有権)

1. 加盟店が会員に信用販売を行った商品の所有権は、当該売上債権が当社に譲渡されたときに当社に移転するものとします。(後略)

第15条(売上債権の譲渡)

1. 加盟店は、会員に対する信用販売により取得した売上債権を当社に債権譲渡し、当社はこれを譲り受けるものとします。

2. 加盟店は、信用販売を行った日から原則として1週間以内に、当該信用販売の売上票を支払区分ごとに取りまとめ、両社所定の売上集計表に添付して当社に送付するものとします。

3. 加盟店から当社への債権譲渡は、別表に定める締切日ごと、当該締切日までに前項の売上集計表および売上票が当社に到着した売上債権について、当該締切日に実行されたものとし、その効力が発生するものとします。ただし、当社が特別に認めた場合についてはこの限りではないものとします。
※売上集計表・売上票の締切日および売上代金の支払日はこのページ中段の表を参照。

加盟店規約によると、毎月1日~15日までの売上債権は当月15日に、16日~当月末日までの売上債権は当月末日に加盟店からJCBに譲渡されるようです。売上債権の譲渡と同時に、加盟店に留保されていた所有権もJCBに移転します。

これらをまとめると、クレジットカード決済で購入した商品の所有権は、まず販売店に留保されます。その後、カード会社と加盟店間の契約に基づき加盟店が売上債権をカード会社に譲渡した時点、もしくはカード会社が加盟店に商品代金を立替払いした時点でカード会社に移転します。そして、当該商品の購入者がカード会社に代金を完済した時点で購入者に移転します。つまり、購入者はカード決済で商品を購入し、その引き渡しを受けた時点では当該商品の占有者という身分であり、商品代金をカード会社に完済した時点で、ようやく当該商品の所有権者となるのです。

横領罪について

ニュースなどで報道される横領事件は、経理担当者や役員が会社の金を使い込んだり、銀行員が顧客の預金を着服した等、その多くは、業務上、お金を管理する立場にある者が犯行に及んだものです。それゆえ、横領とは「他人のお金をこっそり自分のものにしてしまうこと」といったイメージを持つ方も多いかと思います。実際のところ、どのような行為が横領罪とされるのでしょうか?

横領罪について刑法では次のように定められています。

刑法 第252条(横領)

1. 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2. 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

刑法 第253条(業務上横領)

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

刑法 第254条(遺失物等横領)

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

買取方式のクレジットカード現金化で問題となるのは、252条1項の横領罪(単純横領罪)です。冒頭のように、業務上占有しているお金などの財物を横領した場合は、253条の業務上横領罪が適用され、落し物などを自分の懐に入れてしまう行為は、254条の遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)にあたります。横領罪は、その行為の違法性の程度などにより3つに分類され、それぞれ異なった刑罰が定められているのです。

刑法第252条1項 横領罪の解釈

刑法 第252条(横領)

1. 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

この条文だけでは、具体的にどのような行為が横領罪に該当するのかわかりにくいため、これを解釈していきます。

自己の占有する他人の物

占有とは、人が物を事実上支配している状態をいいます。所有権の有無は問いません。ある物について、所有権者=占有権者であることが通常の状態ですが、所有権者と占有権者が異なる場合もあります。例えば、自分で購入した自転車を自分で使用していれば、所有権者=占有権者という状態ですが、それが友人から借りている自転車であれば、所有権者は友人で占有権者は自分ということになります。そしてこの友人から借りている自転車が「自己の占有する他人の物」にあたります。

横領した者

横領の解釈は行為者の主観を含むため少々厄介で、その意義については学説が分かれています。それらの学説を紹介しながら横領の意義を検討していくには膨大な紙面を要するため、ここでは判例をもとに考えていきます。

まず、横領行為は判例では次のような行為とされています。

[A]横領とは自己の占有する他人の物を不正に領得するの意思を実現せしむる一切の行為をいう

大判大6年7月14日 刑録23輯886頁

[B]横領罪は自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があったときに成立するものである。

最判昭27年10月17日集刑68号361頁

文中にある「不正に領得するの意思」「自己に領得する意思」は「不法領得の意思」といわれるもので、横領罪の成立に不可欠な故意以外の主観的要素とされています。

この不法領得の意思については、判例では次のようなものであるとされています。

他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志

最判昭24年3月8日刑集3巻3号276頁

では、この不法領得の意思の意義を、判例にあてはめてみましょう。

[A]横領とは自己の占有する他人の物を、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を実現せしむる一切の行為をいう
[B]横領罪は自己の占有する他人の物を、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を外部に発現する行為があったときに成立するものである。

[A]と[B]の差は、不法領得の意思を「実現させる行為」なのか「外部に発現する行為」なのかというものです。これは一見すると、同じようにも思えますが、実は大きな違いがあります。例えば、友人から借りている自転車を売却し、借金の返済に充ててしまおうと考えたとします。Aの場合、第三者に売却が完了した時点で横領罪が成立します。一方、Bの場合、第三者に売却を持ちかけただけで横領罪が成立します。実際に売り払ったかどうかは問題となりません。

通説では、横領罪の成立には、不法領得の意思を実現させる行為、すなわち処分行為を要するとしていますが、動産売却の意思表示の時点で横領罪が成立するとした判例もあります。(大判大2年6月12日 刑録19輯714頁)不法領得の意思の発現(意思表示)時点で横領罪が成立するとした判例は、横領罪には未遂規定が存在しないことから、処罰範囲を確保するために既遂時期を早く認める趣旨によるものとされています。

以上のように、横領罪とは「自己の占有する他人の物を、委託の任務に背いて、所有権者でなければできないような処分を行うこと」で成立する犯罪であるといえます。ただし、行為の様態や違法性の程度などにより、処分行為は未遂であっても、その意思を発現した時点で横領罪の成立が認められる可能性があります。

買取方式のクレジットカード現金化と横領罪

クレジットカード決済における所有権留保と横領罪に該当する行為を踏まえた上で、買取方式の類型ごとに、利用者の行為が横領罪に該当するかについて検討していきましょう。

利用者の行為は横領罪に該当するか

【買取型】利用者に第三者の商品を購入させ、それを現金化業者が買い取る

利用者が業者に商品を売却する時点で、当該商品の所有権者は「第三者(カード加盟店)」に留保されています。利用者がその商品を売却する行為は、「委託の任務に背いて、所有権者でなければできない処分を行うこと」であり、横領罪に該当します。現金化業者を利用せずに、個人で現金化を行う場合や、Amazonギフト券の買取業者を利用する場合も、この類型と同様の理由から横領罪に該当します。所有権留保の特約付きで割賦販売された動産を、売主に無断で、金融機関に対し自己の借入金の担保として提供した行為が横領罪に該当するとした判例もあります。(最決昭55年7月15日 集刑 第218号243頁

【買戻型】業者が利用者に売り渡した商品を現金で買い戻す

現金化業者と利用者間の売買契約に基づく行為であり、横領行為が存在しないため、横領罪には該当しません。

【斡旋型】集客専門の業者が利用者から現金化の依頼を受け、販売業者と買取業者を紹介する

利用者が業者に商品を売却する時点で、当該商品の所有権者は「販売業者(カード加盟店)」に留保されています。集客業者・販売業者・買取業者をそれぞれ別の業者とみなした場合、買取型の業者と同じく利用者の行為は横領罪に該当します。しかし、これらの業者は実質的には同一業者であり、利用者が買い受けた商品を買取業者へ売却することについて、販売業者の同意を得られているものと推測されます。この場合、委託の任務に背く処分行為にはあたらず、横領罪は成立しません。また、販売業者から商品売却の同意を得られていないとしても、利用者が販売業者から告訴されることはまずないといえるでしょう。

このように、買取型(と斡旋型)の利用者の行為は、客観的には横領罪に該当するといえます。

故意

さて、犯罪は行為者の客観的な行為やそれによって生じた結果が、当該犯罪の構成要件に該当するだけでは成立しません。犯罪が成立するためには、客観的構成要件該当性と共に、行為者に「罪を犯す意思」すなわち故意があることを要します。【詳しくは「故意」を参照】

刑法 第38条(故意)

1. 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

2. 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。

3. 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

故意の内容には争いがありますが、故意は最大限で次の3要素から構成されます。

構成要件に該当する客観的事実の認識と認容(構成要件的故意)

行為者に故意があるというためには、行為時にその犯罪を構成する客観的事実全てを認識し、それらを認容していることを要します。傷害罪でいえば、行為の対象は人であり、自分の行為によって相手は怪我をするだろうという認識を有し、その上でそれでも構わないと考えることです。もし、行為の対象がマネキンだと勘違いしていれば、行為者は客観的事実の認識を欠くことになります。この誤った認識を有した上で行為に及び、相手に怪我を負わせたとしても、罪を犯す意思すなわち故意がないため傷害罪は成立しません。ただし、相手に怪我をさせたことにつき行為者の過失が認められれば、過失傷害罪が成立する可能性はあります。

違法性阻却事由が存在しないという認識(責任故意)

次に、違法性阻却事由が存在しないという認識を要します。違法性阻却事由とは、正当防衛や正当行為など、犯罪の構成要件に該当する行為であっても、その違法性をなくす事由のことです。正当防衛は、相手が急に殴りかかってきたので、身を守るためにやむを得ず反撃した場合などで、正当行為は医者が治療のために患者の体を傷つける行為などですね。いずれの行為も傷害罪の構成要件には該当しますが、当該行為の違法性が阻却され、犯罪は成立しません。

違法性の意識

これら2つの認識に加え、違法性の意識、すなわち当該行為が法律に違反するものであるという意識を要するという見解もあります。通説では、故意があるとするためには、違法性の意識は必要ないが「違法性の意識の可能性」は故意の要素であるとしています。

これは少々難しいのですが、行為者が行為の違法性を意識できる可能性すらなければ、故意(または責任)が阻却されるということです。例えば、行為者が人を殴るという行為は法律に違反するものではないと考えたことにつき相当の理由があれば、故意があるとはいえず犯罪が成立しないということです。逆に、相当の理由が存在しなければ、当該行為が違法であると意識できる可能性は存在したとして、故意が認められます。

通説とされるのは、故意があるというためには、構成要件に該当する客観的事実の認識・認容と違法性阻却事由が存在しないという認識、そして違法性の意識の可能性を要するという見解(制限故意説)です。

では、買取型の利用者は、これらの故意の要素を備えているか検討していきしょう。

利用者には横領罪の故意があるか

故意とは行為者の主観であり、その存否はそれぞれの事案において個別に検討されるものです。ただし今回は、第三者の商品を購入し、それを現金化業者に売却する「買取型の利用者」を対象として、その故意を検討していきます。

構成要件に該当する客観的事実の認識と認容(構成要件的故意)

横領罪の場合、認識の対象となる客観的事実次の通りで、これらは客観的構成要件要素と呼ばれます。
行為の主体:他人の物の占有者
行為の客体:自己の占有する他人の物
実行行為:横領行為
結果:委託者の所有権(物の委託者と受託者の信任関係)

行為者に故意があるというためには、まず、行為者が構成要件に該当する客観的事実を認識している必要があります。

違法性阻却事由が存在しないという認識(責任故意)

買取方式の現金化で考慮すべき違法性阻却事由には「被害者の承諾」があります。斡旋型などのように、現金化業者が商品の販売も兼ねている場合、利用者の横領行為の被害者(所有権者)は現金化業者になります。この場合、現金化業者が当該商品を売却することを承諾していれば、利用者の行為の違法性は阻却され、犯罪は不成立となります。しかしながら、買取型の場合は第三者から商品を購入するため、利用者が売主から商品売却の承諾を得ることはないでしょう。すなわち、違法性阻却事由が存在しないという認識はあるといえます。

違法性の意識の可能性

自分の行為が横領罪という具体的な法規に違反するものであるという意識までは要せず、何らかの法律に違反する行為であるといった漠然としたものでよいとされています。クレジットカード現金化は、消費者庁や国民生活センターなどで利用への注意喚起が行われており、またカード会社の会員規約でも禁止されている行為です。こういった状況から、利用者に違法性の意識がなかったとしても、違法ではないとの考えに至ったことにつき相当の理由は認められないと考えられるため、違法性の意識の可能性は存在するといえます。

留保所有権の認識

上で述べたとおり、利用者に構成要件に該当する客観的事実の認識と認容があれば、違法性阻却事由が存在しないという認識と違法性の意識の可能性も有するものと考えられます。一方、構成要件に該当する客観的事実の認識がなければ、違法性阻却事由が存在しないという認識と違法性の意識の可能性は検討するまでもなく故意が阻却されます。これらを左右するのは、現金化業者に売却する商品の所有権は売主に留保されているという事実を利用者が認識しているか否かです。

留保所有権の認識がある場合

利用者が留保所有権を認識していれば、自分は他人の物の占有者であり、売却する商品は他人の物であると認識することができます。であれば、他人の物を売却して現金を得る行為は権限を超えた処分行為にあたり、委託者の所有権の侵害という結果が生じるということも認識できるでしょう。このように留保所有権の存在を認識している利用者には横領罪の故意があるといえます。そして、その上で行為に及んでいるため横領罪が成立します。

留保所有権の認識がない場合

一方、留保所有権を認識していない利用者は、購入した商品は自分の物であると誤信しています。自分の物を売却する行為が横領行為にあたり、それによって売主の所有権(委託信任関係)を侵害する結果を生じると認識することは不可能です。つまり、利用者は構成要件に該当する客観的事実の認識を欠いているといえます。この場合、委託者の所有権侵害という結果が生じたとしても、利用者に故意がないため犯罪不成立となります。

まとめ

以上をまとめると、買取方式のクレジットカード現金化の利用者のうち、第三者から商品を購入し、それを現金化業者に売却する買取型や、個人で行う転売による現金化は、客観的には横領罪の構成要件に該当します。そして、利用者に留保所有権の認識があれば故意も認められ、横領罪が成立する蓋然性が極めて高いといえます。一方、利用者に留保所有権の認識がなければ、構成要件に該当する客観的事実の認識を欠き、故意が阻却されるため犯罪不成立となります。

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