故意とは

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  • 2016年04月28日
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犯罪は、客観的な要素と主観的な要素によって構成されます。そして、それらの要素をすべて備えた上で違法かつ有責な行為に限り、犯罪の成立が認められます。この犯罪を構成する主観的な要素が「罪を犯す意思」であり、これを故意といいます。今回は刑法における故意について解説していきたいと思います。

故意は「罪を犯す意思」

刑法 第38条(故意)

1. 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

ここにいう「罪」とは「犯罪」のことであり、「犯す意思」とは「実現する意思」とされています。であれば「罪を犯す意思」とは「犯罪を実現する意思」となります。

意思とは

意思という言葉は、人間の主観を表すものであり、曖昧で幅広い意味を持ちます。そのため、刑法における意思の定義も、主に次の3つの見解に分かれています。

【認識説】意思とは、認識とする。「事実の認識」
【認容説】意思とは、認識した上で、それでも構わないと考えること。「認識+認容」
【意欲説】意思とは、認識した上で、それを積極的に望むこと。「認識+意欲」

通説は、事実の認識に加え、少なくとも消極的認容という意思的要素を必要とする認容説です。

犯罪とは

刑法における犯罪とは「構成要件に該当する違法かつ有責な行為」と定義されます。そして、犯罪が成立するための要件も[1]構成要件該当性[2]違法性[3]責任であり、ある行為が犯罪に該当するかという判断は、この順番で検討されます。

構成要件とは、通説では、違法かつ有責な行為を類型化したものとされます。つまり、犯罪ごとに、犯罪を構成するために必要な要素を定義してパターン化したものです。この要素を全て備える行為は原則として違法かつ有責であるということです。簡単にいえば、刑法条文に規定された犯罪の内容です。「人」を「殺した」「者」は殺人罪の類型(パターン)に含まれ、「他人の財物」を「窃取した」「者」は窃盗罪の類型に含まれるということです。

第199条(殺人)

人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

第235条(窃盗)

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

罪刑法定主義により、犯罪として処罰される行為とその刑罰については、法令において、一般人が認識可能な形で、予め・明確に規定されている必要があります。これによって、国民はどのような行為が犯罪とされるかを知ることができ、それ以外の行為についての自由が保障されます。

認識の対象となる犯罪

さて、この犯罪の定義をそのまま故意に当てはめると、故意とは「構成要件に該当する違法かつ有責な行為を実現することを認識し認容すること」となりそうです。しかし、意思は「認識し認容すること」であるため、この場合の犯罪は認識の対象となるものに限定されます。そして、認識の対象となるものは客観的な事実(行為や結果、因果関係など)だけです。

犯罪の定義を認識の対象となるものに限定すると、構成要件においては客観的構成要件要素であり、違法性においては客観的違法要素(法益侵害事実など)です。となると、有責性においても客観的責任要素となりそうですが、責任要素には認識の対象となる客観的要素はありません。「故意・過失」「責任能力」「期待可能性」は全て主観的要素です。

以上より、故意の定義において認識の対象となる犯罪とは「構成要件に該当する違法な事実」となります。そして、故意とは「構成要件に該当する違法な事実を実現することを認識し認容すること」となります。

構成要件的故意

犯罪成立の判断において、故意の一部を構成要件段階で判断する見解と、故意は全て責任段階で判断する見解があります。これは、構成要件に主観的な要素(責任要素)を含めるか、それとも客観的な要素に限定するかという違いです。

以前は「違法は客観的に、責任は主観的に」という原則から、故意は責任段階で判断されていました。しかし、構成要件を客観的要素に限定すると、構成要件は、成立し得る犯罪を明らかにするという「犯罪個別化機能」を有しません。例えば、殺人罪と傷害致死罪と過失致死罪は、客観的にはいずれも「人を殺した」という結果を生じたもので、構成要件段階では区別ができないなどの問題が生じます。

このような問題を解消するため、故意の一部を構成要件段階で判断する見解が通説となっています。この故意が構成要件的故意です。そして、構成要件的故意は「構成要件に該当する客観的事実を認識し認容すること」とされています。

責任故意

構成要件的故意は、責任段階で判断されていた故意の一部が構成要件段階で判断されるようになったものです。であれば、故意から構成要件的故意を除いたものが責任故意であるといえます。そして、その内容は「違法な事実の認識」です。

どのような認識があれば、行為者は違法な事実を認識したといえるか、すなわち責任故意があるといえるかについては争いがありますが、通説とされる制限故意説では、「違法性を基礎づける事実の認識」と共に「違法性の意識の可能性」を責任故意の要素とします。

違法性を基礎づける事実

違法性を基礎づける事実とは、違法性阻却事由(正当防衛や正当行為など)が存在しないという認識です。通説では、構成要件は「違法かつ有責な行為を類型化したもの」であり、ある行為が構成要件に該当すれば、それは違法かつ有責な行為と推定されます。違法性に関していえば、構成要件に該当する行為は原則として違法であり、違法性阻却事由があれば、例外的にその違法性が阻却されます。

【1】構成要件該当事実:存在すれば違法性を基礎づける要素
【2】違法性阻却事由:存在しなければ違法性を基礎づける要素

【1】が存在し【2】が存在しないという事実が違法性を基礎づける事実であり、【1】が存在するという認識および【2】が存在しないという認識が違法性を基礎づける事実の認識となります。そして、前者が構成要件的故意の認識であり、後者が責任故意の違法な事実の認識です。責任の検討段階では、行為者の構成要件的故意は既に認められているため、違法性を基礎づける事実の認識は、違法性阻却事由が存在しないという認識となるのです。

違法性の意識

違法性の意識とは、自分の行為が法律で禁止されているものであると認識していることです。

刑法 第38条(故意)

3. 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

また、違法性の意識の可能性とは、自分の行為が違法であると認識できる可能性のことです。例えば、公的機関(警察や検察)から違法ではないとの見解を得た行為が、実際は違法であったとします。このような状況があれば、当然、行為者は自分の行為は法に則ったものであると考えるはずであり、法律に違反するものであると認識することは不可能でしょう。つまり、行為者が当該行為は違法ではないと信じることにつき相当の理由があるとされ、違法性の意識の可能性が否定されます。

前述したように、通説では違法性の意識の可能性を故意の要素としますが、最高裁判例では、故意があるとするためには、違法性の意識は不要であるとしています。

被告人が当該禁止規定のあることを知りながら犯行をしたか否かは、罪となるべき事実に属しない

最判昭26年1月30日 集刑第39号869頁

犯意があるとするためには犯罪構成要件に該当する具体的事実を認識すれば足り、その行為の違法を認識することを要しない

最判昭26年11月15日 刑集第5巻12号2354頁

 

しかし、下級審においては、故意があるとするためには、違法性の意識の可能性を要するとした判決も複数あります。
※黒い雪事件(東京高判昭44年9月17日 高刑集第22巻4号595頁)、羽田空港ビル内デモ事件(東京高判昭51年6月1日 高刑集第29巻2号301頁)、石油ヤミカルテル生産調整事件(東京高判昭55年9月26日 高刑集第33巻5号359頁)など。

まとめ

犯罪が成立するためには、行為者に罪を犯す意思、すなわち故意があることを要します。通説では、故意は、[1]構成要件に該当する客観的事実の認識及び認容[2]違法性阻却事由が存在しないことの認識[3]違法性の意識の可能性の3要素によって構成されます。[1]の構成要件的故意は構成要件の主観的要素、[2]及び[3]の責任故意は責任の要素とされています。つまり、これらのいずれが欠けても故意が阻却され、犯罪(故意犯)は成立しません。一方、最高裁判例では、[1]及び[2]の認識があれば故意があるとし、違法性の意識は要しないとしています。

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