クレジットカード現金化とは?

更新日
  • 2020年03月30日
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クレジットカード現金化は、年収の3分の1を超える借入れを制限する総量規制(2010年6月18日施行)が始まる前後から急速に広がってきたサービスですが、一度も利用したことがない方は「闇金みたいなものでしょ?」といったアバウトなイメージしか持っていない方がほとんどではないかと思います。
クレジットカード現金化とは実際どういったものなのでしょうか?

クレジットカード現金化とは?

クレジットカード現金化とは、クレジットカードのショッピング枠を利用して現金を得る行為です。
現金化の方法は、業者が販売するキャッシュバック付き商品を購入し、商品購入の特典として利用者に現金を還元する「キャッシュバック方式」と、利用者がショッピング枠で購入した商品を業者が現金で買い取る「買取方式」という2つの類型があります。

クレジットカード現金化の方法

キャッシュバック方式

キャッシュバック方式の現金化は、簡単にいえば、現金が「おまけ」になっている商品をクレジットカードで購入するというものです。現金化業者のウェブサイトなどに記載されているキャッシュバック率が、購入する商品の金額に対するおまけの金額の割合になります。例えば、キャッシュバック率が90%の場合、10万円の商品購入に対し、おまけのキャッシュバックは9万円(通常、ここからさらに手数料が引かれる)となります。

現金化の流れ

業者によって若干異なる部分もありますが、概ね下記のようになります。
[1]現金化業者のサイトから申し込み
[2]指定された商品購入用のECサイトで希望金額に近い商品を選んでカード決済
[3]業者がカード決済を確認後、利用者指定の口座にキャッシュバックされる
[4]購入した商品が利用者指定の住所に配送される

集客サイトと商品販売サイトが分かれている理由

現金化業者はWEB上で利用者にカード決済をさせるために、キャッシュバック付き商品を販売するECサイトを運営しています。ただし、利用者を集客するためのサイト(ホームページ)と商品を販売するためのECサイトは分かれており、現金化の申し込みを行わない限りECサイトを確認することはできません。

この理由は単純で、クレジットカード会社(決済代行会社)の加盟店契約を維持するためです。カード会社は現金を取得することを目的としたクレジットカードの利用を禁止しており、当該ECサイトを現金化業者が運営していることが露見すれば加盟店契約を解除されてしまいます。そうなった場合、現金化業者は利用者からカード決済を受けることができなくなり、営業を停止せざるを得なくなります。現金化業者にとってカード会社との加盟店契約はいわば生命線のようなものなのです。そのため、集客サイトとは完全に切り離した上で、万が一加盟店契約が解除されてしまっても業務に支障が出ないように、別の決済代行会社を利用した複数のECサイトを用意しています。

買取方式

買取方式の現金化は、クレジットカードで購入した商品を業者が現金で買い取るもので、基本的には個人で行う転売と同じです。キャッシュバック方式に比べて手間がかかり、利用者に敬遠される傾向があるため、業者サイトでは現金化の方法について明記されていなかったり、かなり省略して説明されている場合がほとんどですが、利用者が受け取れる金額の割合が「換金率」となっていれば買取方式の業者です。
ちなみに「還元率」はキャッシュバック方式の業者です。ややこしいですね。
買取方式の現金化方法は大きく分けて3つの類型に分かれます。

[1]利用者に第三者の商品を購入させ、それを現金化業者が買い取る

店舗を構えている業者が多い。新幹線回数券や家電類、ブランド品などの換金性の高い商品を利用者に購入させ、それを買い取ることで現金化します。

[2]現金化業者が利用者に商品を販売し、同じ現金化業者が買い戻す

買戻特約や返品特約を付けた売買契約を結び、業者が買戻権を実行する(売り渡した商品を現金で買い戻す)か、利用者が返品権を実行する(買い受けた商品を返品する)ことによって現金化するものです。
WEB経由で利用する場合、業者のECサイトで購入した商品を郵送にて受け取り、再度業者に送り返して買い取ってもらいます。

[3]利用者から現金化の依頼を受け、販売業者と買取業者を紹介する

集客(申込受付)・販売・買取をそれぞれ別業者(別法人)に分けて行うもので、近年の現金化業者に多い類型です。業者を分ける理由の一つとして、段階的に料金を徴収した方が、利用者を口説きやすい点が挙げられます。例えば、現金化の手数料として一度に20%徴収されるより、販売及び買取業者の紹介手数料が10%、購入額と売却額の差損が10%となった方が、利用者も受け入れやすいでしょう。また、表面的には別業者であっても実体は同一業者であるため、利用者に販売した商品を買取業者が回収し、また販売業者に戻すことで、同じ商品を使いまわせるといったメリットもあります。そして、行為の違法性を軽微なものにするという狙いもあると考えられます。

現金化業者は横領罪の共犯

カード会社もしくは売主に所有権が留保されている商品を、現金を得る目的で転売するという買取方式の現金化は横領罪を構成します。(詳しくは買取方式のクレジットカード現金化は横領罪にあたるのか

刑法 第252条(横領)

1. 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。

仮に刑事事件として立件された場合、利用者が横領罪の主犯となり、[1]の業者はその共同正犯もしくは教唆犯となる蓋然性が高いといえます。また、領得物を買い受けたことにより盗品等有償譲受罪(刑法256条2項)が適用されると考えられます。

刑法 第256条(盗品譲受け等)

1. 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

2. 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。

[2]の業者との取引は、売買契約に基づく買戻権もしくは返品権の実行であり横領にはあたりません。ただし、売買契約が仮装されたものであれば、カード会社に対する詐欺罪を構成すると考えられます。

[3]の業者は、集客・販売・買取を同一業者の行為とみなせる場合は、[2]の業者と同じくカード会社に対する詐欺罪を構成すると考えられます。それぞれ別の業者とした場合は、利用者に横領罪が成立する可能性があると考えられますが、集客業者は共同実行の要件を欠くため、その教唆犯もしくは幇助犯が成立するにとどまるでしょう。ただし、横領の被害者は販売業者であるため、被害を訴えることはあり得ないといえます。

古物商許可番号

古物の売買を業として行う場合、公安委員会から古物商許可を受ける必要があります。そして、古物商がウェブサイトを利用して利用者と取引を行う場合、当該サイトのURLを公安委員会に届け出た上で、サイト内に許可証の番号を記載しなければならないとされています。

2. 許可証の番号等の表示(法第12条第2項)

古物商は、ホームページを利用して非対面の方法により古物の取引をしようとするときは、その取扱う古物に関する事項とともに
・営業者の氏名又は名称
・許可をした公安委員会の名称(例 神奈川県公安委員会)
・12桁の許可証の番号(第○○○○○○○○○○○○号)
をそのホームページに掲載しなければなりません。

神奈川県警察/古物商のホームページを利用した取引に関する規定の整備ついて

前述した業者の類型でいえば、[1][2]の業者及び[3]の販売・買取業者は許可証番号をサイト上に記載する必要があり、これを怠った場合、10万円以下の罰金が科されます。[3]の集客業者は古物商を紹介するだけで取引は行わないため、古物商許可は必要ありません。また、多くは現金化の方法を明示していないため、キャッシュバックか買い取りか判断しづらいという特徴があります。
業者自身が買い取ると明記しているにもかかわらず、サイト内に許可証番号の記載がない業者は、違法営業を行っている確率が高いといえます。

現在に至るまでの経緯

個人で換金性の高い商品を購入し、それを古物商などに転売するものや、チケット商の店頭に赴き、新幹線回数券などを買い取ってもらうという方法は昔から存在しましたが、クレジットカード現金化またはショッピング枠現金化という呼称を用い、WEBを利用したキャッシュバック方式の営業を行う業者が出てきたのは2004年頃からです。その前年にヤミ金対策法が施行され、規制の影響により廃業もしくは事業の縮小をやむなくされたヤミ金業者の一部が、貸金業法の適用外であるクレジットカードのショッピング枠を現金化するという行為に目を付けたのです。

その当時は貸金業法が改正前であり、消費者金融などのキャッシング利率はグレーゾーン金利と呼ばれた「年29.2%以下」でした。それに対し、ショッピング枠利用時の金利手数料は、カード会社への返済時に一括であれば0%、リボルビング払いの場合でも20%程度と、キャッシングより低い設定になっていました。

このような背景から、クレジットカード現金化は、オンラインで完結し、即日・無審査で現金を手にできるという利便性と、キャッシングより低金利(現金化業者へ支払う手数料はより高くつきますが…。)という売り文句で徐々に利用者を増やしていきました。

そして、2006年12月20日に公布された改正貸金業法により、金策に窮した利用者が増えることを見越した新規業者が次々と参入し、現金化業者の数は2011年前半にピークを迎えます。業者の絶対数が増えれば、それに伴い悪質な業者も増えてきます。特にこういったグレーな業界では、法規制が入るまでに稼げるだけ稼いでしまおうと、かなりあくどい行為を行う業者が出てくるものです。なかには、利用者にカード決済だけさせて一切振り込みを行わなかったり、当初約束していた金額の半分しか振り込みを行わないなど、完全な犯罪行為に及ぶ業者も存在しました。こうして、国民生活センターや消費者庁には、被害にあった利用者から多くの相談が寄せられることになります。
参考:クレジットカードの現金化(各種相談の件数や傾向)国民生活センター

この状況を受け、警察も取締りに乗り出し、2011年8月5日に全国で初めて現金化業者が摘発されます。この業者は、利用者に自身の販売する商品をショッピング枠で購入させ、キャッシュバック名目で購入金額の8割程度の現金を渡していました。警視庁は、一連の行為は売買契約を装った形式的なもので、実質的には金銭の貸付けにあたるとし、出資法違反(高金利の受領・脱法行為)の容疑で逮捕に踏み切ったのです。現金化行為が金銭の貸付けとみなされれば、それに関する手数料(決済金額の20%程度)は利息となり、業者は利用者から出資法の上限金利(年109.5%)をはるかに超える利息を受け取っていたことになります。

この被告に対し、東京地裁立川支部は、2011年11月に懲役3年、執行猶予5年、罰金2,000万円の有罪判決を言い渡しました。この裁判では、業者と利用者の売買契約が実在したのか、もしくは仮装されたものだったのかが大きなポイントでしたが、裁判所は「ほぼ無価値な商品を高額決済させる」「利用者は商品を選べない」「商品は発送しない」等の取引実態から、売買契約は仮装されたものであったと評価しました。

そして、出資法第7条に基づき一連の行為を実質的な「金銭の貸付け」とみなし、出資法第5条違反によって有罪としました。また、同法第8条は、正当な経済活動を装って実質的には金銭の貸付けを行うなど、出資法の脱法行為を取り締まるための規定であり、この裁判でも適用されています。手を替え品を替え脱法行為を繰り返す悪質業者を取り締まるためのものかと思いますが、この法文では適用対象の広汎性が問題となりそうな気がしますね。

出資法 第5条(高金利の処罰)

1. 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

2. 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

3. 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

第7条(金銭の貸付け等とみなす場合)

第三条から前条までの規定の適用については、手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は授受は、金銭の貸付け又は金銭の貸借とみなす。

第8条(その他の罰則)

1. いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第一項若しくは第二項、第五条の二第一項又は第五条の三の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2. いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第三項の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

この業者が逮捕されてから3ヵ月後に有罪判決を言い渡されるまでの間、現金化業界は騒然としていましたね。当時、クレジットカードの現金化はグレーではあるが犯罪にはあたらないため、現行法では逮捕されることはないという見解が有力でした。しかし、警視庁がキャッシュバック方式の業者を逮捕に踏み切った時点で、前述したような、規制が強化されるまでの短期間勝負と踏んでいた悪質業者や、簡単に儲かりそうだから程度の軽い認識で参入していた業者の大半が撤退し、現金化業者はピーク時の半数以下まで減少します。見せしめ逮捕は見事に奏功し、クレジットカード現金化業界は一気に鎮静化されたのです。

警視庁は、万が一裁判官が現金化行為を金銭の貸付けとはみなさず(起訴された時点で可能性はゼロに等しいですが…)、出資法違反では無罪となった場合でも、事態の鎮静化に一定の効果がでるよう、別件でも確実に有罪にできる業者を選んでいました。逮捕された業者は元ヤミ金業者であり、出資法違反容疑とともに脱税容疑でも起訴されています。すなわち、どう転んでも何がしかの罪で刑罰を科されていたでしょう。こういった状況を踏まえると、この摘発の目的は具体的な現金化方法(キャッシュバック)を違法と認定することというより、社会に「現金化=犯罪行為」という印象を与え、利用に対する警鐘を鳴らすとともに、業者に対しては、現金化に関わればただでは済まさないという威嚇の効果を与えるものであったといえるのではないでしょうか。

現金化はグレーではなく黒(刑罰の対象)となり得るという判例ができ、民事事案から刑事事案に発展したことにより、警察は本格的な取締りを開始します。それまでは、利用者から多数のクレームが入るなどの問題が生じなければ、警察機関が業者に接触することはありませんでした(民事不介入)が、出資法違反で有罪判決が下ってからは、全ての業者に対して違法となる可能性のある行為を自粛するよう指導が入るようになります。また、業者がウェブサイトを公開しているサーバ会社に対して、警視庁(道府県警察本部)生活安全局から「違法情報の送信防止措置依頼」が送付されるようになります。現金化業者のメインの集客ツールであるウェブサイトを潰しにかかったのです。

※送信防止措置依頼とは、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」によって定められた法定の手続きで、インターネット上に公開された違法・有害な情報について、権利を侵害された者や警察機関、インターネットホットラインセンター等が、プロバイダ等に該当情報をWEB上から削除するように申し出ることです。送信防止措置依頼を受けたプロバイダ等は、その情報を自主的に削除するか、発信者への照会を行います。発信者に照会してから、7日以内に発信者から反論がなければプロバイダ等は該当情報を削除し、反論があれば依頼者と発信者の当事者間での解決を促します。

2011年8月の出資法違反の判決はあくまで個別具体的な事案に対するものであり、それによって全ての現金化行為が刑罰の対象であると認められたものではありません。個人的には、この段階で全ての現金化業者のサイトを違法情報とし、送信防止措置依頼を送付した警察機関の対応は、少々行き過ぎたものであったと言わざるを得ません。

出資法違反にあたらない(仮装の売買とはみなされない)方法をとっていた業者は、送信防止措置依頼に対して反論することは可能でしたが、面倒になることを承知の上で警察機関に反論できる業者がいるはずもなく、業者のサイトは次々と閉鎖していきました。こうして、警察機関の取締りが行き届く日本では、現金化業者は自社サイトを運営することができなくなったのです。この時期には、現金化業者の数は全盛期の2割程度に落ち込みます。

しかし、現金化業者も黙って潰されるだけではありませんでした。
日本でサイトが運営できない状況に追い込まれた現金化業者は、日本の法律の及ばない海外に自社サイトを移して営業を再開します。また、先の出資法違反の判決が下ってから、現金化業界では「キャッシュバック方式は違法、買取方式なら合法」という誤った見解が広まったため、2012年以降は多くの業者がキャッシュバックではなく、買取方式で現金化を行うようになります。キャッシュバック方式より手間がかかるにもかかわらず、現在営業している現金化業者に買取方式が多い理由はこういった背景によるものです。「買取方式は合法サービスです!」などと謳っている業者もいますが、実際は、出資法違反となるか否かの判断において、キャッシュバックか買い取りかは問題となりません。どのような方法であれ金銭の貸付けとみなされる行為があり、その利息(手数料)が法定金利を超えるものであれば、出資法8条の規定により出資法違反の罪に問われます。

2014年頃には、現金化業者の数はピーク時の3割程度で落ち着き、国民生活センターなどに寄せられる相談も大幅に減少(2010年:747件・ 2014年233件)しています。最近は、カード決済だけさせて全く振り込みを行わないなど、警察の目に留まるような悪質な営業を行う業者は基本的には存在しません。悪質な業者や詐欺行為が蔓延していた状況が一定の収束を迎え、警察機関の取締りも落ち着きを見せているというのが現状です。

現金化に対する法規制が行われない理由

2011年8月の初摘発から現在に至るまで、数名の現金化業者に有罪判決が言い渡されていますが、いずれも一連の取引が「実質的な金銭の貸付け」とみなされ、出資法違反の罪に問われたものです。実質的な金銭の貸付けとみなされた理由としては、キャッシュバック方式の場合は、商品の引き渡しがないなどの取引実態により、売買契約が仮装されたものと評価されたこと、買取方式の場合は、業者側から現金化ではなく融資名目で利用者を勧誘していたことなどが挙げられます。(よくある「ブラックでも貸します!」的な勧誘ですかね。)

これは裏を返せば、売買契約が実態を伴うものであるなど、実質的な金銭の貸付けとまではいえず、出資法違反には問い得ない場合、現行法規では現金化行為を取り締まることが困難であることを意味します。貸金業法および出資法の脱法行為ともなり得るものであり、カード会社の会員規約でも禁止されている行為であるにもかかわらず、現金化業者に対する直接的な規制措置が講じられないのはなぜでしょうか。その要因について私見を述べたいと思います。

私人間の法律行為は自由

近代私法には、「私法上の法律関係は個人が自由意思に基づき自律的に形成できる」という私的自治の原則があります。私法とは、私人間(しじんかん)の関係を規律する法であり、代表的なものには民法や商法が挙げられます。これに対置されるのが国家等の公権力と私人との関係を規律する公法であり、代表的なものには憲法や刑法が挙げられます。法律関係とは、簡単にいえば、法的な権利と義務の関係です。例えば、賃貸借契約に基づく賃貸人と賃借人の債権債務関係などですね。

この私的自治の原則のコロラリー(論理的帰結)として、「個人の契約関係は契約当事者の自由な意思に基づいて決定されるべきであり、国家は干渉すべきではない」という契約自由の原則(契約締結の自由・相手方選択の自由・契約内容決定の自由・契約方法の自由)が導かれます。契約を締結するかしないか、誰とどのような内容でどんな方法で契約を締結するかは、原則的に個人の自由ということです。

ただし、契約自由の原則は、あくまで契約当事者が対等の関係であることを前提とするものであり、消費者契約(消費者と事業者の間で締結される契約)や労働契約など当事者が対等とはいえない契約においてもこの原則を貫けば、経済的強者にとって有利な契約内容となり、経済的弱者の利益が害されます。そのため、国家が契約自由の原則を修正することによって、当事者間の実質的な平等が図られています。消費者保護を目的とする法律は、消費者基本法・消費者契約法・割賦販売法・特定商取引法・景表法・出資法・利息制限法など多数存在します。

キャッシュバック方式の現金化は、形式的には売買契約に基づいて現金を授受するものです。そのため、契約自由の原則により、どんな商品をいくらで売買しようが、それによって何%のキャッシュバックを受けようが、原則として当事者間の自由です。たとえ売買契約を装った出資法の脱法行為である蓋然性があっても、確実に脱法行為とみなすことができなければ取り締まることはできず、また、カード会社の会員規約違反であっても、それは私人間の立替払い契約に関するものであり、国家権力が積極的に介入することはできないのです。これが現金化業者が規制されない一つの要因であると考えます。

とはいえ、どのような契約内容でもまかり通るということではなく、前述したように、売買契約のような消費者契約における消費者の保護は、現行法規で十分に図られています。例えば、消費者と事業者間の売買契約が誤認によるものであれば、消費者契約法第4条により当該契約を取り消すことができます。

消費者契約法 第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

1. 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一. 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
(中略)

4. 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。

一. 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容

二. 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

仮に、現金化業者が虚偽のキャッシュバック率を提示し、利用者がそれを事実だと誤認して売買契約を締結した場合などには、この規定により契約の取り消しを主張できるということです。

また、不当な表示を繰り返す事業者に対しては、景表法に罰則規定が設けられています。

景表法 第4条(不当な表示の禁止)

1. 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一. 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

二. 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

三. 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

第6条(措置命令)

内閣総理大臣は、第三条の規定による制限若しくは禁止又は第四条第一項の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。(後略)

第16条(罰則)

1. 第六条の規定による命令に違反した者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

2. 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。

近年、消費者保護法制は拡充強化の傾向にあり、消費者契約において発生する様々なトラブルにも幅広く対応できるように法整備が進められています。現在はキャッシュバック方式の現金化を直接的に禁止する規定はありませんが、今後、規制される可能性はあるといえるでしょう。

買取方式の現金化は横領にあたる

買取方式のクレジットカード現金化及び個人の転売による現金化は横領罪を構成します。
所有権留保の特約付きで割賦販売された動産を代金完済前に処分する行為は、横領罪に該当するとした判例(最決昭55年7月15日 集刑 第218号243頁)もあり、刑事事件として訴追された場合は、有罪となる蓋然性が高いといえます。つまり、買取方式の現金化行為は、新たな規制措置をするまでもなく、刑法の規定する犯罪類型に該当する行為なのです。

横領罪の主犯となるのは、他人の物の占有者という身分を有した利用者ですが、利用者を横領罪に問えば現金化業者も共犯に問うことができます。現金化業者は「クレジットカードを現金化します」という謳い文句で集客し、利用者がカードで購入する商品を指定し、それを買い取ります。つまり、利用者に横領行為を促した上で、当該商品を買い取ることによって共同実行するか、買取先の業者を紹介するなど、当該商品を処分する手助けをします。利用者が横領罪で有罪となれば、現金化業者はその共犯(共同正犯・共謀共同正犯・教唆犯)となるか、少なくとも幇助犯は成立します。

とはいえ、横領の被害者であるカード会社もしくは加盟店が利用者を告訴することはまずないでしょう。現金化の利用者が有罪になったところで、訴訟費用を上回るメリットがカード会社にあるとも思えません。

また、捜査機関も利用者に刑罰を科すことは避けているのではないかと考えられます。買取方式のクレジットカード現金化は古くから存在しますが、現在まで利用者が刑罰を科された例は確認できません(先に挙げた判例は二者間の割賦販売であり、三者間の信用購入あっせんとは異なる)。キャッシュバック方式の業者が逮捕された際も、利用者が共犯となってしまう詐欺罪では立件せず、業者だけを処罰の対象とする出資法違反での立件にとどまっています。

謙抑主義と当罰性

刑法には、刑罰は必要不可欠である場合にのみ適用されるべきであるとする原則があり、これを謙抑主義といいます。刑罰は、禁固や懲役などのように個人の自由を奪ったり、罰金や科料などのように財産上の損失を与えるなど、個人の生命・自由・財産に対して重大な不利益を与えるものです。そのため、社会的・民事的・経済的制裁では十分でない場合に、最後の手段として行われるべき国家による制裁であり、刑罰を科すことが必要不可欠とされるためには、それに値する重大な法益侵害が認められる必要があるのです。では、当面の生活費を工面するために、クレジットカードで購入した商品を第三者に転売するという行為は、刑罰制裁に値するほどの当罰性を具備した行為であるといえるのでしょうか?

私見では、法益侵害結果を発生させている以上、刑罰制裁に値する行為ではありますが、カード会社が立て替えた商品代金を返済する意思があれば、現金化の利用者に対する刑罰制裁が必要不可欠であるとは思いません。また、仮に告訴・告発されたとしても、その様態が悪質なものを除き、多くの場合は起訴猶予処分になるのではないかと考えます。※起訴猶予処分とは、被疑者に十分な客観的嫌疑があり、訴訟条件も満たしているが、その情状が軽く訴追の必要がない場合に検察官の裁量によって起訴を控えることです。

刑事訴訟法 第248条(起訴便宜主義)

犯人の年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

捜査機関も刑罰制裁が必要不可欠であるとはいえないといった考えから、利用者の立件を見送っているのではないでしょうか。

以上のように、現在まで利用者が罪に問われたことはありませんが、買取方式の現金化は横領罪の構成要件に該当する行為です。もし、以前のように現金化業者が増加傾向に転じた場合には、業者を警告する意味合いで、利用者の立件に踏み切るかもしれません。

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