クレジットカード現金化の一類型であるキャッシュバック方式。業者のサイトでは「キャッシュバックは景表法のもれなく型にあたり合法です!」と表記されているのをよく目にしますが、一方で、出資法違反などで有罪とされた業者も少数ながら存在します。現在も営業を続けている業者と逮捕された業者との違いはどこにあるのでしょうか?また、実際のところ、キャッシュバック方式の現金化は違法とはされない行為なのでしょうか?
この記事の目次
キャッシュバック方式とは、業者が販売するキャッシュバック特典付きの商品をクレジットカードで購入し、その特典を現金で受け取るものです。商品購入額に対する特典の割合をキャッシュバック率と呼んでいます。例えば、10万円の商品を購入した場合に業者から受け取る金額が8万円であれば、キャッシュバック率は80%です。
利用の際の簡単な流れは下記のようになります。
[1]現金化業者のサイトから申し込み
[2]指定された商品購入用のECサイトで購入商品を選択してカード決済
[3]業者がカード決済を確認後、利用者指定の口座にキャッシュバック
[4]購入した商品が利用者指定の住所に配送される
キャッシュバック方式の現金化は、業者が販売する商品の所有権を利用者に移転し、利用者が当該商品代金を支払うという売買契約にあたります(形式的には)。そして、キャッシュバックは、業者が販売する商品の「値引」とみなされます。
6 「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」について(3) 次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる。
イ.取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払った代金について割戻しをすること(複数回の取引を条件として割り戻す場合を含む。)
(例「レシート合計金額の○%割戻し」、「商品シール○枚ためて送付すれば○○円キャッシュバック」)。
「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年事務局長通達第7号)6(3)イ
つまり、10万円の商品に80%のキャッシュバック特典を付けて販売することと、10万円の商品を8万円値引きして販売することは、実質的には同じ行為であるということです。どちらも場合でも利用者の手元に残る金額は変わらないので、当然といえば当然ですね。
近代私法には「個人の契約関係は契約当事者の自由な意思に基づいて決定されるべきであり、国家は干渉すべきではない」という契約自由の原則があります。契約を締結するかしないか、誰とどのような内容でどんな方法で契約を締結するかは、原則的に個人の自由であり、国家がみだりに介入することは許されません。
この原則は、封建社会から近代市民社会への移行期において、個人が国家などによる干渉や規制を受けずに自由に利益を追求することを保障し、資本主義社会を発展させるための重要な法理でした。しかし、これはあくまで契約当事者が対等の関係であることを前提とするものであり、経済格差が拡大した現代において契約自由の原則を徹底することは、経済的強者を保護し、経済的弱者を圧迫する結果を生じることになります。そのため、国家が契約自由の原則を修正し、経済的弱者を保護することにより、当事者間の実質的な平等が図られています。これにより、経済的弱者に不利益を与えるような契約は、締結したとしても無効とされ、場合によっては罰則を科されることになります。
消費者の利益を保護するために制定された法律は多数存在しますが、売買契約(キャッシュバック方式の現金化)と関連が強いものは、消費者契約法・特定商取引法・景品表示法などがあります。
キャッシュバック方式の現金化は、キャッシュバック特典付き商品の売買です。このような物品や金銭などの「経済上の利益」を付随して商品を提供する場合は、景品表示法の規制を受けることになります。
景表法 第1条(目的)この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
事業者は、消費者に自社商品を選択してもらうため、商品の表示(テレビCM等の広告やキャッチコピー・パンフレット等)を消費者に高い訴求効果を与えられるようなものにします。また、商品にポイントや旅行券など、消費者がお得感を得られるような景品類を付随して提供することもあります。
しかし、実際の商品より著しく優れたものであると消費者が誤信するような不当な表示や、景品を得たいが故に消費者が商品を購入してしまうような過大な景品類が提供されれば、消費者の選択に悪影響を及ぼし、消費者の利益が損なわれます。このような不当な表示や景品類の提供を規制し、消費者の利益を保護するための法律が「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」です。
景表法の規制により、不当景品の提供や不当表示がなされなければ、消費者は商品そのものの価値を合理的に判断し、高品質で適正価格の商品を自主的に選択できるようになり、事業者は消費者のニーズに応えるために、自社商品の品質を高め、適正な価格で商品を販売することに力を注ぐようになります。ひいては事業者間の公正な競争市場が確保され、一般消費者の利益が保護されることにつながるのです。
景表法は、消費者の選択を阻害するような過大な景品類を規制しています。景品といえば、グリコのおまけに代表される食品玩具などを連想しますが、景表法上の景品類とは次の定義を満たすものとされています。
【景品類の定義】[1]顧客を誘引するための手段として、
表示規制の概要|消費者庁
[2]事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
[3]物品、金銭その他の経済上の利益
この定義は抽象化されたものであり、これだけでは該当する範囲が不明確なため、別に詳細な運用基準が定めらています。(詳しくは景品類等の指定の告示の運用基準について|消費者庁)
原則的には、販売促進のために、消費者にとって経済上の利益となるようなものを商品・サービスに付随して提供すれば、どんなものでも景品類に該当するということです。
そして、景表法の規制は提供する形態により「一般懸賞に関するもの」「共同懸賞に関するもの」「総付景品に関するもの」に分けられます。
抽選やじゃんけんなど、偶然性という要素を備えているかがポイントになります。例えば、ビックリマンシールなど、景品の種類が複数存在する場合は、景品の包装が不透明で外観から中身が確認できなければ一般懸賞にあたります。
一部の地域の事業者が共同で実施する懸賞などで、例えば秋葉原電気祭りにおけるアキバくじなどです。
また、商店街で行う歳末福引セールなども共同懸賞に該当します。抽選やじゃんけんなど、偶然性という要素を備えているかがポイントになります。例えば、ビックリマンシールなど、景品の種類が複数存在する場合は、景品の包装が不透明で外観から中身が確認できなければ一般懸賞にあたります。
ベタ付け景品とも呼ばれています。商品購入者やサービス利用者等に対してもれなく提供する金品等が総付景品にあたります。
利用者に対してもれなく提供するキャッシュバックは「総付景品」に含まれます。総付景品の金額は1,000円未満であれば200円、1,000円以上であれば取引価額の10分の2を上限としているため、現金化業者が行うような80%のキャッシュバックは違法となるように思われます。しかし、前述したように、キャッシュバックは「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」であり、この規定の適用対象外とされています。
一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限2. 次に掲げる経済上の利益については、景品類に該当する場合であっても、前項の規定を適用しない。
三.自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であって、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの
一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限|消費者庁
以上のように、個人対個人の売買契約という原則的に国家の干渉を受けることのない形態をとり、消費者保護を目的とした景表法の規制も対象外とされていることが、現金化業者がキャッシュバック方式を合法と謳っている理由です。
前述したように、キャッシュバック方式の現金化は売買契約に基づいて金銭を授受します。契約が存在するからこそ、国家は当事者間の取引に積極的に干渉することはなく、また金銭の授受も表面的には違法性がない行為となります。では、この契約が当事者によって仮装されたものであった場合、すなわち売買契約が存在しない場合にはどのような問題が生じるのでしょうか?
2011年に全国で初めてキャッシュバック方式の現金化業者が逮捕され、その後、懲役3年、執行猶予5年、罰金2,000万円の有罪判決が下されました。業者と利用者間の一連の取引が、売買契約を装った形式的なもので、実質的には金銭の貸付けにあたるとし、出資法の罰則が(高金利の受領・脱法行為)適用されたのです。この業者の利用者との取引実態は「無価値な商品を高額決済させる」「利用者は商品を選べない」「商品は発送しない」など、明らかに仮装された売買契約と評価できるものでした。
キャッシュバック方式の現金化に売買契約が存在しなければ、当事者間の取引は、利用者が現金化を希望する金額のカード決済を行い、業者が手数料を差し引いた現金を利用者に受け渡すというものになります。そして、この場合、一連の取引は出資法第7条の適用対象となります。
出資法 第7条(金銭の貸付け等とみなす場合)(省略)手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は授受は、金銭の貸付け又は金銭の貸借とみなす。
クレジットカードの信用取引は、カード会員が加盟店で決済を行うと、指定の期日にカード会社から加盟店に立替払いが行われるというもので、この点では手形割引と類似したものとも考えられます。(振出人がカード会社、割引人が加盟店(現金化業者)に対応。)つまり、条文中の「その他これらに類する方法」にあたり、当事者間の金銭の授受は貸付けとみなされます。そして、当事者間の取引が、実質的な金銭の貸付けとみなし得るのであれば、現金化業者は同法5条(高金利の処罰)により刑罰を科されます。
では、7条の適用対象である「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」でなければ、金銭の貸付けとはみなされず、出資法の適用から免れるのでしょうか?もしそうであれば、ヤミ金業者などは次々と別の手段を講じて法規制から逃れようとするでしょう。しかし、そういった事態が生じても、出資法を適用できるように8条があります。
第8条(その他の罰則)1. いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第一項若しくは第二項、第五条の二第一項又は第五条の三の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2. いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第三項の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
この8条により、どのような手段を用いたとしても、裁判所が実質的な金銭の貸付けであるとみなせば、刑罰を科されることになります。実際、買取方式の現金化業者もこの規定により、高金利の受領などで有罪判決を受けています。
前述したように、キャッシュバック方式の現金化における売買契約が仮装されたものであると評価し得るものであれば、現金化業者は、利用者に超高金利の貸付けを行い、著しく不当な利益を得た行為に対して出資法の規定により処罰されます。一方、これまで現金化行為で利用者が刑罰を科された前例はなく、利用者が罪に問われることはないと考えている方もいるかと思います。しかし、売買契約が仮装されたものと評価された場合、利用者も詐欺罪で立件される可能性があります。
仮に、当初から現金化業者と利用者との間では、売買契約が仮装であるとの共通認識があるとします。つまり、業者の目的が商品を売ることではなく、金銭を貸し付けてその利息を得ることにあり、利用者の目的が、当該商品を買うことではなく、金銭を借り受けることにあるということです。
この場合、キャッシュバック方式の現金化は、利用者が現金化業者と共謀して商品を購入したように偽装し、現金化業者に対してカード会社から立替払いをさせる行為といえます。これは、いわゆる空クレジットと呼ばれるもので、神戸地裁の判例では詐欺罪に該当し得るとしています。
判決 平成14年9月11日 神戸地方裁判所 平成14年(わ)第83号 詐欺被告事件架空売上げについて立替金の支払いを求めることは認められていないのであるから、クレジットカードの名義人において、後日支払に応じる意思があると否とにかかわらず、飲食の事実を仮装して架空売上げをし、それについて立替金の支払いを求めることが欺罔行為に該当することは明らか
神戸地判平14年9月11日
2011年に現金化業者が初めて摘発されてから現在まで、利用者が刑事責任を問われた事実がないため、今後も利用者が詐欺罪で立件されることはまずないでしょう。しかし、捜査機関がその気になれば起訴される可能性のある違法行為であることは間違いありません。
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