カード会社がクレジットカード現金化を禁止する理由

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  • 2016年05月19日
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通常の買い物であれクレジットカードの現金化を目的としたものであれ、カード決済が利用されれば、カード会社は加盟店から決済額の数%という手数料を得ることができます。そして、この決済手数料がカード会社のメインの収入源となっています。

しかしながら、クレジットカード会社は、会員が現金化目的でショッピング枠を利用することを会員規約で明確に禁止しています。手つかずのショッピング枠が利用され、加盟店からの決済手数料も増えるため、カード会社にとってメリットが大きいようにも思えますが、一体どのような理由からクレジットカードの現金化を禁止しているのでしょうか?

貸倒リスクが高まる

クレジットカード会員が現金を得る目的でショッピング枠を利用した場合、そうでない会員に比べ、貸倒リスクが高くなります。簡単にいえば、カード会社が立て替えた商品代金や貸し付けたお金を、会員から回収できない状況に陥りやすくなるということです。ショッピング枠とキャッシング枠の算出方法の違いなどを含め、この理由について考えていきます。

ショッピング枠とキャッシング枠の関係

ご存知の方も多いとは思いますが、まず初めにクレジットカードの利用可能枠(与信限度額)について説明します。例えば、クレジットカードの利用可能枠が、ショッピング枠「50万円」、キャッシング枠「20万円」であるとします。この場合、ショッピングとキャッシング合計で70万円まで利用できるということではなく、ショッピング枠の50万円のうち、キャッシングで利用できる枠は20万円までということです。(ショッピング枠とキャッシング枠が別枠(独立)になっているクレジットカードも一部あります。)

例えば、すでにショッピング利用が40万円に達している場合、キャッシング枠の上限が20万円でも利用できるのは10万円までであり、キャッシング利用が20万円に達している場合、ショッピング利用は30万円までとなります。「ショッピング枠=キャッシング枠」すなわちショッピング枠の全てをキャッシング利用できる設定になっている場合はまずありません。

これは、クレジットカードのショッピング枠とキャッシング枠では適用される法律が異なり、その算出方法も異なることが原因です。ショッピング枠は、商品購入を主な目的とした利用で、その代金等の立替払いを受けるものであり、割賦販売法が適用されます(2ヶ月以上かつ3回以上の分割払いの場合)。一方、キャッシング枠は資金使途に制限のない融資を受けるものであり、貸金業法が適用されます。

与信枠の算出方法

ショッピング利用可能枠の算出方法

クレジット業者がショッピング利用可能枠を設定する場合は、割賦販売法によって顧客の「支払可能見込額」を算定して審査することが義務付けられ、「支払可能見込額」を超えるクレジットの利用は原則禁止されています。

支払可能見込額とは?

利用者等の年収等から生活を維持するために必要な支出や債務などを除き、1年間のクレジット支払に充てられると想定される金額です。支払可能見込額は次の計算式によって算出されます。 【年収等-生活維持費-クレジット債務=支払可能見込額】

【1】年収等
利用者が自己申告したもの、またはクレジット会社が合理的方法によって推定した額(収入証明書等を提出する必要はありません)。

【2】生活維持費
公的な統計に基づく最低限の生活を維持するために必要な1年分の経費です。世帯の人数、持ち家の有無、居住地等により異なります。

【3】クレジット債務
クレジット会社に返済する1年間の支払予定額です。利用している全てのクレジット債務が調査の対象となります。クレジット会社は経済産業大臣から指定を受けた「指定信用情報機関」を利用してクレジット債務を調査します。

クレジットカードの支払可能見込額

クレジットカードの支払可能見込額は、利用者の支払可能見込額に0.9を乗じた金額が上限になります。その他、クレジット会社によって預貯金や資産、延滞情報や借入の状況などが考慮される場合があります。

クレジットカードの支払可能見込額算出例

年収:420万円
居住地:東京都板橋区
持ち家:有(住宅ローン有)
世帯人数:4人
生活維持費:240万円
クレジット債務:40万円(年間)(420万円-240万円-40万円)×0.9=126万円

この場合、クレジットカードの新規発行や更新の場合、原則として126万円以内のショッピング利用可能枠が設定されます。

支払可能見込額に関する詳細な情報は次のサイトをご確認ください。
知っておこう!クレジットの申込時の法律チェックポイント|日本クレジット協会
改正割賦販売法(クレジットに関する法律)完全施行 | 関東経済産業局

キャッシング利用可能枠の算出方法

貸金業者が利用可能枠を設定する場合は、貸金業法によって顧客の「返済能力」を調査して審査することが義務付けられ、「返済能力を超える貸付け」は原則禁止されています。返済能力調査には、指定信用情報機関が保有する個人信用情報を使用し、他の貸金業者からの借入残高を調査します。そして、自社からの貸付残高が50万円超となる場合、また他社分も含めた総借入残高が100万円超となる貸付の場合は、顧客から収入証明書の提出を受けることが義務付けられています。

他社分も含めた借入総額が、年収の3分の1を超える融資は原則禁止(総量規制)され、貸金業者が顧客に対し年収の3分の1を超える貸付けを行った場合は、行政処分の対象となります。(総量規制絡みで行政処分を受けた例)クレジットカードのキャッシング枠も総量規制の対象となる「個人向け貸付け」であるため、年収の3分の1を超える利用可能枠が設定されることはありません。

キャッシング利用可能枠算出例

年収:420万円
他社借入残高:40万円(420万円÷3)-40万円=100万円

この場合、原則として100万円以内のキャッシング利用可能枠が設定されます。

クレジットカード現金化は貸金業法の脱法行為

上述したように、年収が同じ場合でも割賦販売法と貸金業法では算出方法が異なることから、ショッピング利用可能枠とキャッシング利用可能枠は大きく異なります。そのため、キャッシング枠が限度額に達していたり、総量規制の対象となっている方でも、ショッピング枠には余裕があるという状況が起こり得ます。クレジットカード現金化は、このような状況において、現金が必要になった方が利用するケースが多くみられます。

クレジットカード現金化は、資金使途の自由な現金を得る目的で利用される実質的なキャッシングです。にもかかわらず、商品購入を装いショッピング枠を利用するため、借入残高が年収の3分の1に達している者でも、総量規制から免れることになります。つまり、クレジットカード現金化は、多重債務問題を解決するという貸金業法の趣旨を没却させる脱法行為にあたります。

貸倒リスクの上昇は重大な損害をもたらす

クレジットカード会社は、貸金業法や割賦販売法の規制を遵守した上で、既存顧客のデータをもとに、会員の与信枠を算定します。この属性の会員であればショッピングはこの金額まで、またキャッシングはこの金額までなら、会員が債務不履行に陥るリスクは許容範囲内であると判断しているのです。

キャッシングやクレジット(販売信用)を扱う金融業では、顧客からの返済が滞り、貸付金や立替金が回収不可能となる「貸し倒れ」はつきものであり、この貸倒リスクの管理は重要な業務の一つです。例えば、10万人の顧客に対し、それぞれ10万円の貸付金や立替金(債権)がある場合、債権の総額は100億円になります。この場合、顧客の貸し倒れが1%増減すれば、その損益は1億円にものぼります。カード会社にとって、この貸倒リスクを管理することが、いかに重要な業務であるかは想像に難くないでしょう。

クレジットカード現金化は、カード会社が慎重に慎重を重ねて算定した会員の与信枠を超えて、金銭を借り受けることを可能にしてしまいます。会員への貸付金(ショッピング枠の利用であるため、表面上は立替金)が与信枠を超えれば、貸倒リスクもカード会社の許容範囲を上回るものになります。このように、カード会社に重大な損害をもたらし得る行為であることが、会員規則で禁止される理由の1つです。

違法性のある行為

クレジットカード現金化の利用者の行為は、横領罪や詐欺罪に該当し得る違法性のある行為です。現在まで利用者が逮捕された事例はありませんが、刑事事件として立件された場合には有罪となる蓋然性が高いといえます。では、具体的にどのような行為が犯罪に該当し得るものであるかについて触れていきます。

横領罪

横領罪に該当し得るクレジットカード現金化の類型は、個人で換金性の高い商品を転売するものと、第三者から購入した商品を現金化業者が買い取るものです。これらは、売却先が現金化業者か否かという点が異なるだけで、基本的には同じ行為であるといえます。
現金化と横領罪について、詳しくは【買取方式のクレジットカード現金化は横領罪にあたるのか

横領罪とは?

横領罪は刑法第252条に規定されています。

刑法 第252条(横領)

1. 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

条文を読んだだけでは、どんな行為が横領罪に該当するのかよくわかりませんね。刑法条文は、犯罪行為の類型を明文化したものであるため、ある程度抽象的に書かれています。条文そのままでは適用される範囲が不明瞭であり、裁判官によって判決が異なるなどの実務上の問題も生じるため、これを解釈してより具体的に定義する必要があります。

横領罪の条文を解釈すると「自分の占有する他人の物を、委託の任務に背いて、所有者でなければできないような処分を行うこと」となります。これでも少々抽象的ではありますが、いくらかは理解しやすくなったでしょうか。例えば、他人から借りている物を、貸主の許可なく勝手に売ったりすると横領罪に該当します。

クレジットカードで購入した商品はだれの物?

さて、横領罪の条文を読んで疑問に持った方もいるかと思いますが、クレジットカードで購入した商品は自分の物ではないのでしょうか?割賦販売における商品の所有権については、割賦販売法第7条に規定が置かれています。

割賦販売法 第7条(所有権に関する推定)

第二条第一項第一号に規定する割賦販売の方法(2か月以上かつ3回以上の分割払い)により販売された指定商品(耐久性を有するものとして政令で定めるものに限る。)の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは、割賦販売業者に留保されたものと推定する。

クレジットカードで購入した商品の所有権は、一時的にカード会社に留保されます。正確には、商品を購入した当初は、その商品を販売したクレジットカードの加盟店に所有権が留保され、その後カード会社から加盟店に商品代金が支払われた時点でカード会社に移転します。つまり、クレジットカードで購入した商品は、立て替えてもらった代金をカード会社に完済するまでは他人の物であり、購入者は商品の所有者ではなく、占有者という身分になります。

転売によって行われる現金化は横領罪に該当

このように、クレジットカードによって購入した商品の所有者は、その商品を販売した加盟店であり、購入者は商品の占有者という身分です。そのため、購入者が商品を転売して現金化する行為は横領罪に該当します。

電子計算機使用詐欺罪

電子計算機使用詐欺罪に該当し得るクレジットカード現金化の類型は、キャッシュバック付き商品の売買によって現金化を行うものです。

電子計算機使用詐欺罪とは?

電子計算機使用詐欺罪は刑法第246条の2に規定されています。

第246条の2(電子計算機使用詐欺)

前条(詐欺罪)に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

本罪は、コンピューターに虚偽のデータを入力するなどして、財産上不法な利益を得る犯罪です。例えば、銀行のオンラインシステムにアクセスして、自分の口座に架空の入金情報を与えたり、偽造のテレホンカードを公衆電話に差し込んで残度数を処理するコンピューターに虚偽の情報を与えるといった行為が該当します。

コンピューターに虚偽のデータを与え、財産上の利益を得るという行為には、「人を欺く」という要件がある詐欺罪は適用できず、「占有の移転」という要件がある窃盗罪も適用できません。そのため、法の隙間を埋めるために1987年に新しく規定されたのが電子計算機使用詐欺罪です。

キャッシュバック方式の現金化との対応

電子計算機使用詐欺罪は、行為者が、人の事務処理に使用する電子計算機(客体)に、虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に関わる不実の電磁的記録を作り(実行行為)、財産上不法の利益を得た(結果)場合に成立します。

キャッシュバック方式の現金化は、カード会社の加盟店となっている現金化業者が、加盟店の売上データを管理するカード会社のコンピューター(客体)に、虚偽の売上データを計上し(実行行為)、カード会社から支払い(結果)を受けるものです。

本罪の主観的な要素である故意及び不法領得の意思に関しては、当該行為が現金化目的であるという認識があることで足りるでしょう。このように、キャッシュバック方式の現金化は、電子計算機使用詐欺罪の構成要件該当性を有し、原則的には本罪が適用できると考えられますが、これには条件があります。

仮装の売買契約を装った現金化は電子計算機使用詐欺罪に該当

上で述べたように、キャッシュバック方式の現金化に、電子計算機使用詐欺罪の構成要件該当性を認めるためには条件があります。それは、業者と利用者間の売買契約が、金銭を授受するために仮装されたものであると評価できることです。

業者が商品にキャッシュバックを付けた目的が商品の販売促進であり、利用者の目的が商品を購入することである場合、当事者間の金銭の授受は売買契約に基づくキャッシュバックであり、カード会社のコンピューターに計上した売上データも正当なものであるといえます。

一方、業者が商品にキャッシュバックを付けた目的が現金の貸付けであり、利用者の目的が商品購入ではなく、現金を借り受けることであれば、当事者間の取引は売買契約を装った金銭消費貸借契約であるとみなすことができます。そして、売買契約が仮装されたものとみなすことができれば、カード会社のコンピューターに計上した売上データも、通常の商取引を装った虚偽の情報であるとみなせます。

以上のように、売買契約を装った現金化は電子計算機使用詐欺罪に該当すると考えられます。そして、利用者はカード会社のコンピューターに虚偽の売上データを計上するという実行行為には加わっていないものの、現金化業者と共謀したという事実により共謀共同正犯とされるか、少なくとも幇助犯とされることは免れないでしょう。

まとめ

クレジットカード現金化は、カード会社が算定した利用者の与信枠を超える貸付けを可能にしてしまいます。これは返済能力を超える過剰な貸付けであり、利用者が返済不能に陥り、カード会社が貸付金や立替金などの債権を回収できなくなる貸倒リスクを高めます。また、横領罪や電子計算機使用詐欺罪に該当し得る違法性のある行為であり、カード会社がこれを黙認すれば、違法行為を助長したとしてカード会社自身が処罰される可能性もあります。これらがカード会社がクレジットカード現金化を禁止する理由です。

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